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籠と旅 <秋田 こだしっこ>

この地域で籠は「こだし」、籠を編む職人を「こだしっこ」とか「こだしっこや」等と言う。

 

あけびの蔓から、それは美しい「こだし」が生まれる。

 

名工の拵える丸籠をはじめて見たときはたいへん感動したものだ。

このような仕事ができるのはどのような職人だろうかと深い関心を持った。以降、周りの知人にも伝えてまわっていたが、実はすでに名の通った名工であったと後に知る。それが幸いであった、名工と正面から向き合うことができたのであろう。また関係を築く上では有名無名どちらでもよい。

 

名工を訪ねる前、連絡を取る事を幾度と躊躇い月日だけが経ち、一年後、ようやくお会いできた日のことは今でもよく覚えている。それはまたの機会にでも。

 

今日はあけび蔓籠作りの下拵え、その一端をお話したく思う。

 

 

写真が三つ葉あけび、小葉が3枚、弾力のある蔓がこだしの材料となる。

 

一つのこだしを拵えるまでには、様々な準備が必要である。

蔓を採取する時期の前には山々を見て回る。雪が溶けた4月ごろに少し採取し、本格的には9月から初雪まで、採取した蔓は生の状態のうちに、蔓に付いている葉や根を取る。屋根上で天日干しを2週間、屋根下で自然乾燥を2ヶ月、蔓がぽきりと折れるまでしっかりと乾燥させる。

 

山に蔓を採取しに行く日、屋根上に蔓を上げていると注意する。蔓が雨に濡れると大事であるため、途中で天候が変わり雨の気配がすると早々に家に戻り蔓を取り込む。蔓を乾燥させる時期はうかうかと遠出ができないわけである。

 

こだしを拵えるその姿は、一見軽快で楽しげであるが、材料にする蔓の下拵えがあってこその仕事、こだしっこも厳しい仕事である。

 

以前、屋根上に乾燥させている蔓の取り込みの様子を拝見するために、名工について屋根に上がったことがあった。高い場所をあまり好む方ではないが、せっかくの機会、長い梯子を奮起して登った。屋根の上ではたいそう足の震えを感じた。後にその事を伝えると、梯子を登る様子が普通ではないと感じていたと話した。名工が私を人に紹介する際、いくつかの話を添えることがあるが、この話もよく出る逸話のひとつである。

 

さて、2016年秋、予てからお願いをしていた蔓の採取に同行した。

 

車のない時代は、自宅から山の麓まで自転車で、山を分け入り採取場所まで歩いた。片道2時間はかかったと言う。20〜30kg程の蔓の束を担いで降りたのは大層であったろう。 採取できる蔓の量は、その年の気候でも変わってくる。おそらく色合いも異なるだろう。地球の環境変化もあってか、採取量は年々減っていると言う。常に新たな場所を見て周り、採取場所の確保にも気を配っている。

 

材料となる蔓は、地面を真っ直ぐに這って伸びているものを使用する。あけびは藪によく見かけるが、木々が密集し過ぎては木に蔓が巻きつくため、同じ藪でも地面はひらけた条件が良いが、木の枝が進行を遮っている場所が多く、その枝を上に下に交わしながら進み、同時に蔓を探しながら中腰で移動する。それを半日続けるのは一苦労である。

 

この日の採取はまずまずであった。

藪の奥に生えていた杉の根元にいくつかのきのこがあったので、山の恵みを食べる分だけ戴いて、山を降りることにした。

 

 

下山中、昔は湧き水が湧いていたという場所に案内された、そこが休憩場所でもあったと言う。

 

しばらく降りていくとひらけた場所に出たので、朝、妻の恵美子さんが持たしてくれた弁当を食べることにした。昔の様々な話を聞くことができた。時折静かに風景に目をやった。強い風が木の葉を空高く運んでいた。

 

このひとときもまた格別な時間となった。

 

 

さて、帰り道、この時期は岩魚がいると言う。

 

小川の上流をしばらく見ていると、さっさと下流に歩いて行った。あまりに早かったので、追うことができずその場で待つことにした。しばらくすると、両手を前にして戻ってきた。手には綺麗な岩魚が入っていた。警戒心が強い魚は、何か気配がするとすぐに岩の下に隠れる。岩の下に両手をそっと入れて待っていると、手の上に岩魚が入ってくるので、その瞬間に掴むのだと言う。

 

とても嬉しそうだった。野球少年だった頃、山遊びを自然と覚えた頃、名工の少年時代の面影を垣間見た。

 

 

「今日もありがとうございました。また来ますのでよろしくお願いします。」

蔓を採り終えると、山に声をかける。蔓を採っている時も、「こんな籠になるんだよ。」と蔓に話しかける。

 

自然に感謝し、こだし作りを共にした家族や今を共にする妻に感謝し、籠を使う人に感謝し。

 

 

美しいこだしは、美しい心から生まれ。

それは手にとるとたいそう心地良い。

人を癒す薬が如し。

 

 

あけび蔓籠の名工、中川原信一氏。

氏と妻 恵美子さんと同じ時代を共にしていることに心から感謝したい。
猫ののんちゃんも忘れてはいけない。

 

2017年5月10日 | かご籠